【トウゴマによる犬の中毒】
■概要
豆類には糖結合性タンパク質であるレクチンが含まれています。アフリカから西アジア原産のトウゴマ(Ricinus communis)の種(castor beans)にはリシン(ricin)というレクチンの一種が含まれており、犬やヒトに中毒を起こします。リシンの毒は強力で、生物化学兵器として用いられることもあります。トウゴマの種子から得られた油はヒマシ油と言い、瀉下薬などとして利用されています。また、花は観賞用として身近なところで愛されていますし、工業用の潤滑油など多くの産業で用いられています。リシンは油の搾りかすの方に残り、ヒマシ油に溶け出すことはないとされています。
■原因物質
Ⅱ型リボソーム不活性化タンパク質の一種リシン(ricin)。リボソームRNAの不活性化でタンパク質合成が阻害され急性細胞死をもたらします。
■臨床徴候(症状)
少し古いですが1987年〜1998年の間にアメリカのAnimal Poison Control Centerでは98例のトウゴマの種を摂取した報告があり、そのうちの9%が死亡か安楽死に至りました。
最も多かった症状は嘔吐、抑うつ、下痢でした。
噛み砕いて摂取した場合の方が中毒症状は強く出る傾向にあり、過去の症例報告では糞便からトウゴマの種の殻を発見することと、質量分析法で胃内部からリシンを検出することで確定診断に至っています。
死亡例では、空腸における壊死性腸炎と散発的な肝細胞の壊死が見られたと報告されています。
また、症例報告では観葉植物として飾っていたトウゴマの種を犬が誤食したようだと考察されています。
■中毒量
犬での中毒量は不明で、馬では7~8mg/kg、人では1mg~20mg/kgが経口致死量とされています。
リシンは種子が噛み砕かれる際に放出され、細胞のタンパク質合成を阻害することで毒性を発揮します。
■中毒を起こしやすい動物種・犬種
特にありませんが好奇心旺盛な子犬や、観葉植物など身近にトウゴマが存在する環境で飼育されている犬はリスクが高いです。
■催吐
不明です
■治療
支持療法が中心となります。リシンの分子量は146であり、活性炭も有効であると考えられ症例報告でも用いられています(症例は死亡)
■注意すべきこと
トウゴマは観葉植物として飼育環境に置かないようにします。トウゴマから取れるヒマシ油にはリシンは含まれないとされています。
■コラム
■参考
・林原亜樹; 衛藤真理子; 肥前昌一郎. 白インゲン豆による食中毒に伴うレクチン活性の分析事例. 福岡市保健環境研究所報, 2007, 32: 101-104.
・トウゴマ公益社団法人日本薬学会,https://www.pharm.or.jp/herb/lfx-index-YM-200610.htm
・リシン, KEGG, https://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?dr_ja:D02304
・Albretsen, J., Gwaltney-Brant, S., & Khan, S. (2000). Evaluation of castor bean toxicosis in dogs: 98 cases.. Journal of the American Animal Hospital Association, 36 3, 229-33 . https://doi.org/10.5326/15473317-36-3-229.
・Mouser, P., Filigenzi, M., Puschner, B., Johnson, V., Miller, M., & Hooser, S. (2007). Fatal Ricin Toxicosis in a Puppy Confirmed by Liquid Chromatography/Mass Spectrometry when Using Ricinine as a Marker. Journal of Veterinary Diagnostic Investigation, 19, 216 - 220. https://doi.org/10.1177/104063870701900217.
・欧州食品安全機関(EFSA)、動物用飼料中の望ましくない物質としてのリシン(Ricin), 食品安全委員会, https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu02680340149
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