【止瀉薬の中毒】
■概要
ロペラミドは下痢止めの成分として用いられる。下痢止めとして用いる用量では血液脳関門を通過するのは少なく脳への移行はあまりしないとされるが、過量投与では移行して中枢神経症状を呈する。薬物くみ出しに関わるMDR1遺伝子変異が多いコリー犬種では、他の犬の薬用量でも中毒を起こす可能性がある
■原因物質
腸管神経のμまたはδ受容体に作用してアセチルコリンの放出を抑制して、蠕動運動を弱める。μ受容体は人の口腔粘膜内にも存在しており、口腔内でのロペラミドを含むうがい液では局所的な鎮痛作用を示すことも知られている
同じμ受容体に作用し、強い鎮痛作用を持つモルヒネで腸蠕動の低下を経験されたことのある先生方も多いと思いますが、これはロペラミドの作用機序と同じで腸管のμ受容体を介して起きています。
■臨床徴候(症状)
過剰な唾液分泌(流涎)、食欲不振、鎮静、徐脈、呼吸抑制、低体温など。
■中毒量
治療用量では、脳内への移行は少なく中枢神経系に殆ど影響を与えない。(そのため鎮痛作用は低く麻薬指定されていない)
コリー系の犬種では、脳の血液脳関門の薬剤くみ出しを担う輸送体をコードするのに必要なMDR1遺伝子が変異している個体がいる。そうした犬では通常問題ない用量でも、中枢神経に拡散して中毒を起こす可能性がある。
犬における止瀉剤としての推奨用量は0.04~0.2mg/kgです。0.63mg/kgの摂取で嘔吐を起こす可能性がある。5mg/kg以上の高用量で後肢の麻痺が発現する。
コリー犬では0.1mg/kg以上で中毒を起こす可能性があル。
■中毒を起こしやすい動物種・犬種
コリー犬種では、他犬種の薬用量で中毒を発現する可能性がある。
ロペラミドは肝臓で代謝され、血漿中の半減期は6から14時間となる。肝機能低下している個体では中毒症状が延長する可能性がある。基本的には回復することが多い中毒だが、子犬(非コリー系)の中毒で死亡例が報告されている
■治療
拮抗薬であるナロキソンが有効であるほか、近年では医原性ロペラミド中毒のラフコリーに静脈内脂肪乳剤を用いた症例報告がなされている。本症例ではABCB1-1 ∆変異(MDR1変異)を持っており、下痢の治療として0.75mg/kgのロペラミドを3日間投与されていた。流涎、不安、運動失調で受診し、静脈内脂肪乳剤(ILE)投与3時間後には神経学的に正常となった。
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■注意すべきこと
英国で発生している犬のロペラミド中毒の多くは、市販薬を与えられたことで発生している。日本でもロペラミドが含まれた下痢止めが薬局で手に入ります。人用のものは用量が多いので、下痢などがある際は投与せず動物病院を受診することが重要となる。
■参考
・LONG, Whitney M., et al. Use of 20% intravenous lipid emulsion for the treatment of loperamide toxicosis in a Collie homozygous for the ABCB1‐1∆ mutation. Journal of veterinary emergency and critical care, 2017, 27.3: 357-361.
・Sartor LL, Bentjen SA, Trepanier L, Mealey KL. Loperamide toxicity in a collie with the MDR1 mutation associated with ivermectin sensitivity. J Vet Intern Med. 2004 Jan-Feb;18(1):117-8.
・ピタリット(0.5mg/2tab),大正製薬, https://www.catalog-taisho.com/content/dam/selfmedication/jp/ja/others/images/05441/pdf/05441_Explanation1.pdf https://www.catalog-taisho.com/category/05/004/05441/
・福岡県薬剤師会, 塩酸ロペラミドをうがいで使用することはあるか?, https://www.fpa.or.jp/johocenter/yakuji-main/_1635.html?mode=0&classId=0&blockId=40258&dbMode=article&searchTitle=&searchClassId=-1&searchAbstract=&searchSelectKeyword=&searchKeyword=&searchMainText=
・日本ペインクリニック学会, オピオイド, https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_keyopioid.html
・抗精神病薬の薬物反応性における血液脳関門遺伝子多型の影響, https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15790612/
・ABC tansporter ,https://www.pharm.kyoto-u.ac.jp/structbl/research/abc-transporter/
