【キシリトールと同じ糖アルコールのエリスリトールは犬にとって安全?】
■概要
本日は犬の口腔や皮膚のケアの成分として注目されつつあるエリスリトールの犬の安全性プロファイルをご紹介します。
プロバイオティクスは「宿主に健康上の利益をもたらす生きた微生物」と定義され、様々な菌が用いられている。ヨーグルトのように市販されているものや、プロバイオティクス製剤として医学や獣医学で用いられる製品もある。プレバイオティクスは、「腸内微生物に特定の変化をもたらし、宿主の健康に利益をもたらす選択的に発酵させた成分」とされ、オリゴ糖や食物繊維が当てはまる。近年では、ここにキシリトールやエリスリトールなどの糖アルコールも皮膚や口腔内の細菌叢の調整に用いられるようになってきている
日本においては犬の歯周病や膿皮症にエリスリトールを用いる試みがされており、今後エリスリトール関連製品を目にする機会が多いと思われることから犬における安全性を下記記載する。
■物質
エリスリトールは糖アルコール低分子(122Da)で小腸で吸収され、人や動物の体で代謝をあまり受けず尿中にほぼ排泄される。キシリトールと比較して下痢を起こしにくく、後述するように犬での慢性経口毒性試験においても下痢を発現させなかった。
■エリスリトールの犬への利用について
エリスリトールは、犬の歯周病原菌であるPorphyromonas gulae, Porphyromonas macacaeに対して、増殖を抑制する効果を示したことが報告されている。
エリスリトールは犬の歯周病だけではなく、膿皮症の治療の研究にも用いられている。エリスリトールと5%とアスコルビルリン酸0.1%のを28日間投与することで、Stphylococcus pseudintermedius、S. scheleiferiの増殖を抑制することが報告されている。
いずれも日本で精力的に行われている研究なので、耳にする機会が今後増えるかもしれない。
■安全量
犬では安全性が高くビーグル犬を用いた1日5g/kgの摂取でも有害事象は見られなかった。(無毒性量NOAEL=5g/kg)
(キシリトールでは0.15g/kgの摂取で中毒を起こす可能性がある。)
他の毒性試験の報告も紹介する。
53週間に渡り行われた8頭の犬のエリスリトールの慢性経口毒性試験では、食餌中に0%(対照群)、2%、5%、10%ずつ添加して実施された。
高用量を与えられた犬では水分の摂取量がわずかに増えたものの、全群で下痢は見られず、体重などには影響しなかった。尿量にはばらつきが出たものの、電解質を含む血液学的、臨床学的なパラメータに有意な変化は認められなかった。病理検査も実施されたが、腎臓やその他臓器に組織学的変化は認められていない。この実験では犬の体重1kgあたり、3.5gの摂取は犬にとって良好に忍容できる量であると結論づけられた。
■コラム
口腔ケアでの応用では歯磨きペーストに添加したり、スプレーで歯面に塗布する、飲料水に希釈して飲ませるなどの方法が考えられており、エリスリトールの効果を最大限に発揮するための投与方法を検討していく必要がある。
■参考
・MUNRO, I. C., et al. Erythritol: an interpretive summary of biochemical, metabolic, toxicological and clinical data. Food and chemical toxicology, 1998, 36.12: 1139-1174. 低分子のとこ
・EAPEN, Alex K., et al. Acute and sub-chronic oral toxicity studies of erythritol in Beagle dogs. Food and chemical toxicology, 2017, 105: 448-455. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0278691517302272
・Dean, I., Jackson, F., & Greenough, R. (1996). Chronic (1-year) oral toxicity study of erythritol in dogs.. Regulatory toxicology and pharmacology : RTP, 24 2 Pt 2, S254-60 . https://doi.org/10.1006/RTPH.1996.0106.
・清水 万夢, エリスリトールによる犬の歯周病予防効果に関する研究, https://gifu-u.repo.nii.ac.jp/records/101306, 岐阜大学博士論文, 2023-03-13
・Tochio T, Kawano K, Iyori K, Makida R, Kadota Y, Fujii T, Ishikawa H, Yasutake T, Watanabe A, Funasaka K, Hirooka Y, Nishifuji K. Topical erythritol combined with L-ascorbyl-2-phosphate inhibits staphylococcal growth and alleviates staphylococcal overgrowth in skin lesions of canine superficial pyoderma. Pol J Vet Sci. 2023 Dec 12;26(4):647-655. doi: 10.24425/pjvs.2023.148284. PMID: 38088308.
・エリスリトールは犬の歯周病原因菌を抑制する ~犬の歯周病予防の新たな選択肢~, 岐阜大学プレスリリース, 2022