犬のチューリップ中毒
■概要チューリップは春に咲く植物であり、誤飲すると犬や猫に軽度から中等度の消化器症状を引き起こすことがある。
■原因物質チューリパリン(tulipalin)A、チューリパリン(tulipalin)B、およびチューリポシドが原因物質として知られている。チューリポシドは、tuliposide-converting enzyme (TCE) または tuliposide A-converting enzyme (TCEA)によってチューリパリンに変換される。
これらの物質は、抗真菌作用をもち、チューリップの防御物質として機能している。
■臨床徴候(症状)犬猫で認められる主な症状には、過剰なよだれ、嘔吐、下痢、腹部の痛み、鼓腸が含まれる。これらの症状は通常、摂取後数時間で発症することが多いとされる。
■中毒量どの程度摂取すると中毒を起こすかについては不明である。チューリップのすべての部分が有毒であるが、特に球根部分にはチューリパリンAやBが高濃度で含まれている。
■中毒を起こしやすい動物種・犬種
犬のチューリップ中毒では、花や球根部分の誤飲が多いことが特徴である。
■催吐
摂取後短時間であれば催吐が有効とされる。
■治療
特効薬は存在せず、対症療法が中心となる。
■注意すべきこと
チューリップは広く愛されている園芸植物であり、春にはさまざまな場所で見かけることができる。春のお散歩中には、犬が花や球根を誤飲しないよう十分注意する必要がある。また、チューリパリンは人間にも接触性皮膚炎を引き起こすことが知られており、植え替え作業などで多く触れる場合は手袋を着用することが推奨される。作業中には周囲に犬や猫がいないことを確認することも重要である。
■コラム
チューリパリンAは人間にチューリップフィンガー(tulip finger)と呼ばれる皮膚炎を引き起こすことがある。特に花屋や園芸関係の職業に従事する人々に多い職業病として知られている。
■参考
・BATES, Nicola. Exposure to cut flowers and spring flowering plants in cats and dogs in the UK. The Veterinary Nurse, 2012, 3.1: 36-41
・SIROKA, Zuzana. Toxicity of house plants to pet animals. Toxins, 2023, 15.5: 346.
・NOMURA, Taiji; OGITA, Shinjiro; KATO, Yasuo. A novel lactone-forming carboxylesterase: molecular identification of a tuliposide A-converting enzyme in tulip. Plant physiology, 2012, 159.2: 565-578.
・SHIGETOMI, Kengo, et al. Asymmetric total synthesis of 6-tuliposide B and its biological activities against tulip pathogenic fungi. Bioscience, biotechnology, and biochemistry, 2011, 75.4: 718-722