◉意外と注意したい鉄中毒:酸素吸収剤、カイロ
■概要
鉄は空気中の酸素により酸化し、酸化鉄に転じる。この酸化の際に発生する熱を利用したのが使い捨てカイロで、鉄が酸素を吸収する性質を利用したのが食品の品質を長持ちさせる脱酸素剤である(エージレスなど)。
基本的に誤飲しても毒性は低いが、海外では脱酸素剤の誤飲で中毒を起こした犬の例が報告されている。鉄の酸化反応を利用した製品では、酸素と反応し切った酸化鉄では毒性が低く(生体への体の吸収効率が低く、体内にあまり入らない)、開封した直後の反応が進んでいない段階の鉄の摂取がより危険と推察される。
■原因物質
鉄粉(脱酸素剤や使い捨てカイロに含まれている)
■臨床徴候(症状)
生体内の過剰な鉄は活性酸素種(ROS)を生成し、細胞脂質膜やミトコンドリアなどの損傷を起こす。消化管や肝臓、心血管系に障害を与え、臨床兆候として嘔吐下痢、腹痛、倦怠感、消化管出血、そして心機能障害を引き起こす。中毒症例では、発症時から血清ALTの上昇が見られ、退院後3ヶ月のフォローアップでもALTの継続した上昇が確認されていた
■中毒量
犬では、20〜60 mg/kgで軽度から中等度の臨床症状を引き起こす可能性があり治療やモニタリングが必要。
60 mg/kg以上の摂取は重篤な中毒を起こす。100〜250 mg/kgが致死量とされる。
ただし、一般的に脱酸素剤やカイロに含まれる鉄粉の量は不明で、他に混合物も製品ごとにあるので、個別の製品における中毒量や毒性は不明。
■中毒を起こしやすい動物種・犬種
好奇心旺盛な子犬や、飼い主の身につけるものに興味を示す犬(カイロや目元あったかアイマスクにも鉄粉が入っている)
■治療
対症療法、脱酸素剤の鉄による鉄中毒の犬では鉄キレート剤(デフェロキサミン)を使用していた。
■注意すべきこと
酸化鉄由来の鉄の吸収率は一般的に低い。脱酸素剤やカイロでも開封して反応し切って酸化鉄になっている場合は誤飲しても吸収される鉄は、未開封のものと比較すると少ないと考えられる。犬の脱酸素剤による鉄中毒症例も、未開封のペット用トリーツ製品を食い破って誤飲していたと報告されている。
未開封のものや、開封直後のものは特に注意して保管する必要がある。
小型犬では脱酸素剤の袋やカイロそのものによる閉塞の可能性もある。また、目元あったかアイマスクでもこの酸化反応が利用されているので、身につけて就寝する際は犬を寝室に入れないなどの誤飲予防が重要となる。

■参考
・BRUTLAG, A. G.; FLINT, C. T. C.; PUSCHNER, B. Iron intoxication in a dog consequent to the ingestion of oxygen absorber sachets in pet treat packaging. Journal of Medical Toxicology, 2012, 8: 76-79.
・食品安全委員会 , 欧州食品安全機関(EFSA)、食品添加物としての酸化鉄類及び水酸化鉄類(E 172)の再評価に関する科学的意見書を公表
・神戸製鋼, https://www.kobelco.co.jp/products/powder/warmer.html